好きな作家、吉村昭、中でも作品としては高熱隧道

(写真は、2018年黒四ダムに、兄弟姉妹その連れ合い、とおちゃん と訪れた時の工事で亡くなった170余名の碑の前で)

 私はあまり小さい頃から本に親しんでいなかった。

 東京で生活するようになり、杉並西永福から、お茶の水まで毎日、予備校に通いながら朝晩の金沢では想像もできない、満員電車通いに疲れていた。

 私の唯一の楽しみは、たまに、帰りに網棚の上に残された週刊誌を持ち帰り捲ることだ。

 よく覚えていないが、どこかに吉村昭の名前が載っていて、とおちゃんの名前昭保の一文字と重なるなと親しみを感じていた。

 頭の隅にあった思いが、いつも夕食をいただく「龍公亭」への通り道にある古本屋で、吉村の本を手にすることにつながった。

 「高熱隧道」というタイトルが目に留まり購入。

 ただで手に入れた週刊誌と違いお金を出して買ったものだから最後まで読まないともったいないと思い読み始めた。

 かっぱえびせんではないが、途中で読むのがやめられない。

 予備校で習った復習をしなければならないのに!と心配が頭をよぎるがそれよりも、今読んでいる内容に惹かれ一気に読み切る。

 試験にも出そうにない、読んだからと言って入試には直接関係ないが、本当にこの本から太平洋戦争以前、電力確保に黒部第三発電所建設に至る工事の難しさが、克明に書かれていた。

 ずっと後で私が知ったことだが、吉村は寡作の作家で、とにかく綿密な取材を地道に長い時間を費やしてするとのこと。

 私は一度読んだ本を読み返すことはほとんどないが、これだけは何年か日をおいて、4回ほど読み返した。

 そのたびに、こころに響く箇所が変化した。

 吉村の作品は、破獄などテレビ化されたものもあるが、なんといっても短編の集まり「総員起シ」の中の瀬戸内海の潜水艦事故の話が、こころに残る。

 ある原因で潜水艦が浮上出来ず2人を除き全員死亡。全く世に知られていない悲劇を10年もかけて取材した短編。

 なんとその事故の主因は、閉まるはずのハッチに、小さな木片概略挟まり締まり切らなかった事。

 ちょっとしたことから、多くの命が奪われる悲劇が生まれた。

 まさに蟻の一穴🐜

 普段の生活の中でも、ちょっとしたことから、かみさんとぶつかることもあるので、心しなければならない⁉️

 (全く毛色は変わるが、上前淳一郎の「読むクスリ」は、お金を出して帰るようになった、週刊文春のコラム掲載の話だが、文庫本シリーズ化されているので、心身共に疲れている時に読むのに最適)